山陽立地・つれづれDEEP

10年にわたって書き散らかした事々を、この際一か所にまとめた

クラブてんやわんや③刑事訴訟証言台

ヤクザ屋さんの中にも気持ちの通じる兄貴もいる。Sちゃんはなかなかの武闘派で、日頃はにこにこと話もしやすいが、一度機嫌を損じるともう手が付けられない。あるときなど、お店で何かのもめごとで話し合いの最中、ピストルを振り回したりして危険極まりない。ある大きな組のなかで自分の一派を率いて、凌ぎもそこそこあるらしい。なにせ夜昼なしに遊び歩いて、飲み歩いて、女もして、ぼろぼろの体になった頃、なにかの事件でパクラレテ、少々お勤めに出る。塀のなかでは、規則正しい生活と十分な治療をうけて、出所するころには元気溌剌。よう帰ってきたで顔とを出す。そんなことの繰り返すのSちゃんから、マスター、連中の若い衆が仕返しに来るらしいでとの知らせがきた。暴力団担当刑事に相談しても、何かあったら連絡してくれぐらいのことで、何かあった時はもう遅いんやと突っ込みをいれたくなる。仕方がないから腹に新聞紙を巻いて晒で留めておく。濡れた新聞紙がいいんだけど、まさかそうはいかない。トランシーバーを買い込んで駅前の交番に子機を置いてもらって、まさかの時は連絡、駆けつけてもらうように頼みこむ。皆さん事件の後の方が大変だよ。
一方、お店の方はその逮捕があって以来、ヤクザ・チンピラの出入りがぴたりと止まった。
あの店のマスターはすぐポリにチクリよると警戒してのことだ。
そのうち、取り調べが進んで、公判が近づいてきた。被害者証人として、証言をしなければいけない。
4人のうち、一人は未成年であったらしく、親からはいずれ御金は弁償するから、ほんの使い走りったと証言してくれなどと言ってくる。
その後の人生で民事は何度か経験することになるんだけど、刑事は後のも、先にもこれっきりの経験だ。
明石地方裁判所の何号法廷か忘れたが、証言台に立たねばならない。当日腹を決めて法廷に臨んだ。
傍聴席には、被告4人の家族やら、連れやら、子分やらがつめかけている。チクッタのはこいつかとばかりに視線が集中する。決して気持ちの良いもんでは御座いません。それでも不思議と冷静な気持ちで、断固個人の生活権を踏みにじるようなことは許されないとか何とか証言しちゃいました。
未成年はそうたいしたことにはならなかった。しかし、主犯の二人は、前も有り、保釈中でもあったりして、その後6-7年のお勤めに鳴った筈。
出所後、ひとりは自宅でダイナマイト自殺。もう一人は拳銃自殺をしてしまった。
こんな修羅場はとても我々には耐えられない。我々が手を染める仕事ではありません。
心配したお礼まいりにはなんとか合わずにすんだようだが。